ナポリの仕立て屋

ナポリの仕立て屋

ナポリに行って,いつも楽しみにしていることの一つはこちらのサルトリア(仕立て屋)で服を作ることです.今までナポリにくるといつも作っていたシャツ屋さんのメローラ&デレーロは,なんとメローラさんとデレーロさんが別れたらしく,お店,というかブランドそのものががなくなってしまった.で,デレーロさんが新しくオープンした店をマリネッラで紹介してもらってデレーロブランドのシャツをオーダー.型紙とかもなくなってしまったようでまた一から採寸し直しです.ちなみにマリネッラの吊るしのシャツはこのデレーロさんが作っているそうです.

今回は,Paolo Di Mauroでスーツとシャツをオーダーしました.パオロは前回ナポリに来たときに,歯周病医のジョバンニ先生から紹介してもらったサルトリアでナポリ郊外のアベルサというところに工房を持っています.昼間は講演で忙しい我々のために,初日にアベルサに行って生地を選び,採寸をしてもらうと,滞在中の夜にホテルに持ってきてくれて仮縫いから仕上げまでしてくれます.もちろんこれはジョバンニ先生の口利きがあってのこと.通常は3ヶ月から半年くらいかかるそうです.ナポリは地元の人間の紹介というのがあるとないとでは全く違います.その意味では,我々はナポリ大学のフェロ教授の紹介で,普通では体験できないだろうなというようなことをずいぶんさせていただいています.去年のフェラーリの見学とか,その前のKitonの工場見学とかもそう.

ところでパオロのサルトリアにいく前に,アベルサの市庁舎とセントポール教会に観光に連れってもらった.と思っていたら,これは市長の表敬訪問のようなことになって,市長さんこそ用事でおられなかったが,よくわからないけどおそらくきっと偉い人が案内してくれて,その模様が翌日の新聞に載っていたのは驚きました.アベルサのローカルサイトにも掲載されています.


さて,Paolo Di Mauroでは前回来たときにジャケットを作ったのですが,これが結構タイトな仕上がりです.まっすぐ立って,姿勢よくお腹をへっこめておかないとボタンが留められないくらい.今回はスーツをお願いしましたがこれも仮縫いの時点で相当ぴったりで,ジャケットのウエスト周りなんかはさらに詰めようとピンを打っていきます.ファッションリーダーのジョン先生も,東京で作ってもまずこんなところは詰めない,これはかなり攻めのデザインと感心していました.大きめに作るなら多少の調整はきくだろうけれど,ぴったりにあわせていくのはかなり難しいはずです.この辺りが既製の服とは違う着心地とスタイルと作り上げていくところ.アメリカの合理性とはまた違うこだわりを感じます.これは矯正治療でも同じで,最大公約数的なテクニックで,60点を目指す方法と,あくまでもその患者さんにとって一番よいと思われるところを個別に目指していくものとは,どちらがよいとか悪いとかいうことはむずかしいけれど,相容れないものがあるように思います.そして,私たちの非抜歯矯正治療のテクニックを紹介するセミナーでこうして何度も呼んでいただけるのも,イタリアの彼らが守っている,ある意味不合理な手製の縫製とか,気の遠くなるような芸術作品と通ずるものがあるからのような気がするのです.